戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
こうしている間にも、仕事帰りと思しきサラリーマンやOLの視線を浴びても素知らぬ顔のクセに。
「…申し訳ありません」
何だか気に入らないリズムを打ち始めた鼓動をひた隠すように、瞳を逸らしてとりあえず謝ってみた。
「ええ、本当ですね」
そう言ったきり、クルリと背を向けてテンポ良くスタスタと歩くロボット男は、やはり身勝手な性格だ。
別に手を繋がれている訳じゃない。だから、このまま反対方向へ逃げる事だって不可能じゃない。
それなのにヤツ仕立てで着飾った今の私は、どうしてかヤツのあとを追って足を進めてしまっている。
暫くして前方を行くロボット男の歩みが止まった先に建つのは、有名な高級イタリアンのお店だった。
ここは普通なら予約無しでは入れないのだが、この男を捉えた総支配人らしき男性によって奥へと案内される。
恭しい態度のお店は息が詰まるから、もちろん苦手。それでも、ついて来てしまった以上は進む外ない。
そんな私のスタイルといえば、マヌーシュの控えめフリルが女性らしさを醸し出すベージュワンピース。
足元はジュゼッペザノッティの黒のハイヒールが、オトナ可愛い引き締め役となっている。