戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ちなみにバッグはお洋服を引き立たせたくてシンプルに、大好きなサマンサの黒で落ち着かせているのだが。
「ピンクのサンローランがあったはずでしょう?」
「…うるさいですね、案外」
「仕立てるなら完璧に、がモットーなので」
運ばれて来る高級イタリアン料理を前にしても、このスタイルにダメ出しする男の存在が一番の困りモノだ。
確かにあのキュートなサンローランのピンク色のフェミニン・バッグを持てば、この男には満点なスタイルになるのだろう。
だがソレは嫌で仕方ない。私としては高級ブランドが一概に良いと思わないし、それで全身を固めるのも嫌いだもの。
オマケにイヤミ男は、サマンサの高級ぶりを知らないのか。それこそまったく以って失礼だ。
彼にはここでも反抗し、内心で悪態をつきながらも。それが着実に染まりつつある自分への抑制――とは言える訳も無く、ひたすら目線を合わせずにいた。
「まずは食べさせて下さい」
「そうですね。貴方に完璧を求めるのは難しい」
白ワインがゆらゆら揺れるグラスを傾けつつ、フゥ…と嫌らしく溜め息を吐いた男に相当苛立つが。
「ええ――何と言っても、“追放されている身”ですから」
とにもかくにも、今のお腹の減りは勘弁だ。その一言を置き去りにし、高級なお食事に集中する事にした。