戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】

もちろん私はそんなこと考える余裕もなく、真っ黒な瞳を向けて来る専務の動向にひたすら注視していた。


なぜ怖いのかも分からないほど、ただ漠然とした不安に駆られて――


「言葉の通りですよ」

それもまた伝わってしまったのだろう。彼は冷淡な顔つきのまま、諭すように言ってくれたものの困惑する私。


「義理の婚約を申し込んだ時点で、貴方を見捨てるつもりは毛頭ありません。
それは心に留めています。
尋ね返せば、今まで私は貴方に嘘を吐きましたか?」


「・・・ない、かと」

「ありませんよ、断じて」

珍しくハッキリ口にするロボット男に対し、動揺に加えて不信さを覗かせた眼差しを向けたせいか。覚束ない返答の私を捉えた真っ黒な瞳が一層艶めく。


こうも自信あり気に言われてしまえば、こちらはもう首を縦に振ってそれを肯定するしかなくなった。


「ですから。たとえ利潤関係であっても、遠慮せず頼って下さい」

「っ、」

じわり、心に沁み込んだ言葉に息を呑む。どこか悔しい気分に苛まれていた中で、なぜロボット男は温かいのだろう…?



“利潤関係でも”の続きの言葉を、どう受け入れれば良いのか分からなくなるじゃない。


いつになくドキン、ドキンと高ぶりをみせる鼓動に、そっとフタをするように俯いてしまう。



「怜葉さん、分かりましたか?」

だが感情ゼロなロボット男は待つ時間もムダらしく、これで納得したかと答えを急かして来た。


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