戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
男が悪いと言いながら結局は、お金を選んでいる私がフツーに生きていける術はもう、不思議かつ偽装な婚約関係の継続だけだもの…。
「あー、また間違えた!」
前夜の余韻が冷めきらない分、翌日はバリバリと仕事をこなすつもりが、簡単な情報登録さえ手こずっていた。
オフィスに苛立ちめいた声を響かせているあたり、冷静さを手に入れるどころか動揺は増すばかりだ。
「トッキー、ご乱心だな」
そんな私に呆れながら話しかけてきた加地くんの言葉で、専務の婚約者としての立場を忘れていたことに気づく。
「あーうん、由梨が休みだしね」
あの男ご期待の“TPO”が遵守出来ていないが、今さらこの部署内で取り繕うのはムリな話と収めておこう。
「そりゃ分かるけど。そこまでフォローする?」
「だって由梨、明日は大変な事になるだろうし。
こういう時はお互い様だもん。――ついでに私は良いのよ、忙しい方が好きだし」
分からないといった様子で聞いて来るものだから、思わず苦笑してしまった。
ちなみに一端のOLゆえ、仕事人間ではまったくない。ただ働くのは嫌いではないし、この方が気が紛れるからとは言えないが…。
「トッキー意外とM?」
「…ねえ加地くん。それ、全部が失礼なんだけど」
それなりにバタバタの中、忙しいであろう彼が話しかけて来たのはお昼をとうに過ぎた午後2時のこと。