戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


そんな私の傍らで、今度はなぜだか慌てふためく加地くんはさておき。どうにか冷静に務めて、声がした方へと向き直った。


するとポカポカと温かい日中の陽光には不向きな、ブラックスーツを纏ったロボット男と対面することに。


明らかに営業回りのサラリーマンを一蹴する何かを放つ彼の風貌は、デキる男を意味するのだろう。


およそ十メートルは離れていた距離を、軽快な足取りで徐々に詰めて来るものだから一歩も動けなくなった。



凍りついたように固まった加地くんが、甚く恐縮するのはムリも無い。
何度も言うがロボット男は、私たちの勤める会社の専務であるから――



誘われたディナーの時の彼からの同情にも似た言葉は、きっと数日で忘れ去れると思っていたのに。昨日の今日はムリだ。


ああ、もうやだよ。“頼って下さい”というフレーズに何の意味も持っていないのだから、イチイチ本気にしてはダメ…。



「就業中にケーキを食べに行かれるそうですね」

「…どうして、」

「用事があって部署へ連絡したところ、そう教えて頂きましてね」

「その…休憩、していなくて」

どんな顔をすれば良いのか、と考えるヒマを一切与えてくれない、冷淡な眼差しと問い掛けに困惑するばかり。



こうして淡々と真っ黒な瞳で詰問されるのはさておき、なぜロボット男が昼時のオフィス街を歩いている?


そう尋ねたいものの、残念ながら今の私には返答以外の余裕はゼロのため、ヘルプを求めて加地くんをチラっと一瞥した。


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