戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
こうして何かに救いを求めるのは、どこかで怖いのかもしれない。ロボット男から、“別段どうでも良いですが”と言われのるが嫌だから…。
「人事部・採用管理課の加地くん、ですね?」
時間のムダを嫌う彼なら、当然といったところか。
案の定、ロボット男は静かに私とのクダラナイ会話を止めてターゲットを変更した。
「あ、は、はい…!」
何より顔を知らないと思っていた、一般社員の加地くんの部署名まで正確に述べたロボット男は、さすがの冷淡さで彼に眼を向ける。
だいたい加地くんも加地くんだ。私からのヘルプな視線には気づかないフリのクセに、専務と対峙する今はピシッと姿勢を正すのだから。
ただ私と居るところで専務に出くわして、まさにトンデモナイ場面に遭遇したと沈黙を貫いていたのだろう。
よくよく考えてみれば、加地くんこそ巻き込まれて一番可哀想だ。
その相手が一部上場企業の創業者一族の息子でいて、睨まれているのが自社の専務とくれば、将来を考えれば怖いに違いないわ。
何といえば良いのだろう。無表情かつ冷淡な顔つきを向けて来るのだが、この男が放つオーラは途轍もない。
今さらな話としても、高級ブランドで着飾っているだけの“今”の私が偽の婚約相手とは、どうみても無理があるのでは無いか?
思案する私の傍らで、冷や汗タラリに違いないほど固まっている加地くんに対し、ロボット男は容赦も温情もない顔つきだ。