戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
権力使う以前に、部署内の戦力になる人材確保させろっていうのよ――なんておこがましい言葉は呑んだ。
「とにかく決定事項です。明日の夜は、何があっても空けて下さい。
――怜葉さん、良いですね?」
するとピタリと歩みを止めた男が振り返り、こちらへ呆れたような声韻と真っ黒な眼差しを送って来る。
念押しのためか会社経営者として君臨する高層ビルを前に立ち止まった彼に、なぜだろうか違和感を感じた。
冷淡かつ冷酷と評される真っ黒な瞳が、珍しく焦って見えるは気のせいとしても。
やはり先ほどまで加地くんに見せていた、ロボット男必携の精悍さが薄い。
「・・・そうですか。
明日もどうせ朝早くから休憩ナシで仕事ですし、どうにかしておきます。では」
“気にするな”の誓いを早々に破った自分を叱咤しつつ、嫌味混じりの同意を吐き捨て去ることにした。
「――待ちなさい」
「っ、な…に」
潔く脇をすり抜けようとした刹那、グッと強い力で片腕を掴まれた。
不意に引き止められた身体が、その力に屈して硬直する。