戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


この状況に苛立って、忌々しげに睨みつけて振り返るのも、大人としてはオカシな話である。



何より顔を向けられないのは、今どんな顔をしているのか分からないからだ。


そうこうするうちに、ドクン、ドクンと高ぶる鼓動は、このまま素知らぬ顔を通すのが正しいのだろう。



咄嗟の反応だったといえ、まるで自分とは思えない弱々しい声を出したことも、今となれば情けない…。



「今後、勘違いされる行動は慎んで下さい」

顔を向けない私のせいで暫く続いた沈黙。それをまた打ち破るのは、どこまでも変わらないロボット男の声色。



「どういう意味、ですか」

「婚約者として命令です」

徐々に掴まれている腕に熱がこもってきたからと、彼の発言を良い方向へ解釈する方が間違っている。


「ただっ…同僚と休憩に、」

「それを周囲が見ていて、ただの同僚と捉えますか?
どうやら貴方は“今ある立場”をお忘れのようだ。怜葉さん、違いますか?」


「はっ、なして…!」

聞きたくもない言い訳をしたからか、本意を告げられたことがまた自尊心を奪わせる材料となった。


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