戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
“良いでしょう”――そう淡々と頷いた刹那。スッといとも易く腕を解かれた悲しさが心に立ち込める。
最後までロボット男の顔を見ることなく逃げ去ったものの、ただ勘違いな自身が恥ずかしくて堪らなかった。
認めてしまえば一方通行の感情がプラスされる虚しさなど、素知らぬままでいた方がマシだったもの。
ああダメだ私…。呆れるほど単純すぎる性格だから、元彼にも騙されてしまったのかな――
「本当にすみません」
「いやいや、とんでもない!今日くらい気にしないで良いから、ね!」
「すみません…、お先に失礼いたします」
押し問答を繰り広げた、翌日の夕方ごろ。
この時期に定時で終えることに謝罪した相手は、なぜだか課長を飛び越え部長であった。
“よく働いてくれるし気にしないでくれ”と言う、人事部長の顔は明らかに引き攣っていた。
どちらかといえば、思ったことが顔に出やすい部長だけども。あれはどう見ても、何かに怯えているようだった。
あれこれと考えなくても、それは間違いなく“重役宣言”しやがった男のせいだろう――