戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
どんな時に於いても悠然とした所作で振る舞うことが、以前の私に求められていたモノであったから。
「あら、アナタ」
どうやら秘書室のドアを開けたらしい女性は、そんな私の姿を捉えるなり、訝しげな顔つきを見せた。
この人は確か、密かに秘書課で一番の権力者と誉れ高い、福本(フクモト)さん。
人事部に籍を置いていれば、いくら社員が何千人と居ようと主要な社員は覚えてしまうものである。
「あ…、お忙しいところすみません。
人事部の緒方と申しますが…」
「ええ知ってるわ。専務なら既にお帰りよ」
こちらの挨拶をスパッと遮って眉を顰めるあたり、社内イチの男と婚約しているのはご存知のようだ。
お姉さまの反感を買わぬようにとヘラヘラ愛想笑いを浮かべた。
それより何より、肝心のロボット男はなんと私を置き去りにしたらしい。
ここへ辿り着くまでには部長に脅し(よく言えば指示)を出し、部下の意見を無視したノー残業デーにしておきながら。
敢えなくイヤイヤ赴いた私を置いて、自分は悠々と先のご帰還ですか――なんて素敵なご身分なのだろう。
「悪いけど、そこ空けてくれる?」
「え、あ…、すみません」
またもやフラストレーション備蓄中だが、約束をすっぽかされて悲しいのも事実。上から目線な彼女の言葉で、脇へと身を寄せた。