戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
すると我が道を邪魔されていた福本さんは鼻を鳴らし、キツイ香りを漂わせて不機嫌に歩き始めたが。
みるからに踏まれれば痛そうなピンヒールの足をピタッと止め、再びコチラへ視線を合わせて来る。
何だろうかと僅かに首を傾げれば、先ほど以上に険しい面持ちの彼女と対峙する羽目となった。
すでに秘書室ではお局さまとして勢力拡大中なのだろう、威嚇する迫力が凄まじい。
これが男の人の前では、コロリと声色と表情を一変させるのだから凄いと思うわ。
連携プレーの取れた、受付嬢の次は何を言われるのだろうかと、ゴクリと喉を鳴らして沈黙に耐えていると。
キスの際に男性が大変に思うほど、口紅ベットリな口元を緩ませた彼女。
「ホント…、婚約者さんも大変ねぇ。
高階専務は“色々”お相手されて、常々お忙しいでしょうから」
そう嫌味を誇張して吐き捨てた口と同じく、塗りどころが見つからないといったメイク顔は圧巻ものだ。
ところどころの単語に大袈裟なアクセントを置いて、フンと鼻を鳴らして笑うとは失礼極まりない。
「…ええ、そうですね。
専務の忙しさは、まがいなりに理解しておりましたが、先輩の優しいアドバイスに感謝いたします」
ニコリ笑顔でサラサラかわす私こそ、図太い神経の持ち主だろう。
女子社員の間で有名な先輩に、なかなか嫌味返しは出来かねるものだ。
「へぇ…、そんな風に寛大だと結婚出来るのね」
地味な後輩の図々しい態度が、明らかにお気に召さなかったらしい彼女。
“ソレなら良いけど”と、最後にギロリ睨みを利かせて立ち去ってくれた。