戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
見間違いなどアリエナイ距離感で、会話までハッキリ届いて来るではないか。
さらり約束を破った真っ黒な瞳のロボット男へ、親しく寄り添う女性の姿から目が離せない。
「ダメよ、そんなのっ」
「アカリ…だから、」
「彗星…!」
「あのな、これが最善だろ?」
「そんなの…、そんなの間違ってる!」
何かを必死に拒みながらも、ギュッと彼の胸へしがみつく女性に対し、その女性の名前を優しく呼ぶロボット男。
どことなく2人ともが切なげに、何か苦渋の決断をしたに違いないと傍目から見ていて思った。
彼女のことは呼び捨てで、やはり偽でしかない婚約者の私は“さん”付けか。ましてあんな風に優しい声音を聞いたことも初めてだ。
そんな些細なことさえ比較すると、今度は自身を嘲笑するしかなくなった。
ああ、本当にバカみたいだ。ほんの少しの優しさは、彼にとって義務感での行動だったというのに。
勝手に勘違いから妙な期待をして、こうして失敗するとは。そもそも単純すぎるからダメなのだ。
ノリユキに詐欺に遭った一件さえすっかり忘れ去って、何も糧に出来てないのだから。
「でも…、それは反対よ!」
「いや、俺は聞かないからな――アカリにとっても一番だと」
なおも続けられるやり取りでは、何かを必死に抗う女性のことを宥めながらも、強く言い切ったロボット男の姿に胸が締めつけられた。