戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
欲しい欲しいと思ってしまう私はこどもで。それを悟られたくない、と必死に虚勢を張っている今は惨めにすぎない。
「…あいにく婚約者が不在のため、今夜行われたブランドの新作展示発表会には敢えなく不参加でした。
その婚約者さんとはなぜか連絡さえつかず、こうしてマンションに赴いてみれば居ない。
――いったい今どこですか、何時でもご自由すぎるアナタは」
ここまできても嫌味オンパレードで淡々と尋ねて来るのだから、最早この男の特許物に思えてしまう。
だいたい“婚約者”として微塵も捉えていないクセに、こうも押しつけがましく言われては苦しくなるわ。
「新幹線、…の中」
それにしても不思議と、すべての経緯を話されてしまえば罪悪感が募るもの。ましてや一方的にコチラが悪く思われるのは御免こうむりたい。
悔しいことにロボット男の平坦な声色に急かされるように、ポツリと現在地を教えてしまっていたのだ。
「新幹線…ああ、だから煩かったのですね」
「心臓あるの?」
「ええ、無謀な婚約者のなさる行動に驚く程には動いていますよ。
だいたい約束を破った理由は何ですか。まずは、それを聞かせて貰いましょうか」
「…破ったのは誰よ」
誰しも想定外の発言ならば、少しは驚くものではないのか?
いつになく淡々として自己完結の男に、先ほど以上にうんざりした。
「意味が分かりません。とにかく、次の停車駅で降りて下さい」
「いやよ。ソッチがそういうつもりなら、明日も帰らない」
「――どういう事ですか」
全てをさらりかわして下した命令に失礼な態度で拒否を示してあげれば、当然のように一層のこと声色が低くなった彼。