戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
いや、なぜ知っているのか。どうしてこの嫌味ばかりのロボット男に、私のとっておきプレイスがバレているのだ?
「言ったでしょう、貴方の事は何でも知っていると」
暫し動揺していたこちらの気持ちをアッサリと代弁すれば、またしても軽く一笑にふせるから悔しさが募るばかり。
あれこれを知るのは、この男の場合ストーカーなどという理由でない。
じつに単純明快――調べ上げた私の“経歴”として認知しているだけのこと。
言わずもがな、ロボット男が賢者でいて他人に興味を示さないことは、社内の者ならば周知の事実であるから。
「何なの、ほんと…」
「そうですね、何でしたら現地へ迎えを寄越しましょうか?」
「っ、いらないわよ!」
そうだ、そうだった。今さら遅すぎるが、ケンカを売る相手を間違えていた。これより先はもう、敗者への道を着々と辿るだけだろう。
たとえ“迎え”と言われようが、まったく嬉しくない。どれほど頑張ってみようが、結果は最初から出ているのだ。
この男が自ら動くことがなければ、そうして貰える立場でもないことも。
悔しいけども、何かを変えられる甘さは存在しないのが私たちだ。
キリリ痛みを覚えた胸には気づかないフリをし、耳元から携帯電話を少しだけ離して小さな溜め息を吐いた。
「まったく…。それほど迎えが嫌なようでしたら、明日は朝一番の新幹線で戻って来て下さい。
加えて最後に――いま貴方を必要としているのは、誰だと思いますか?」
「…え、ゆ、由梨ですか」
「貴方と電話中の俺を差し置いて?」
さらに呆れた声音での突然の問い掛けといえば、ラストを飾るに相応しい効力たっぷりなものだった。