戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
こちらは不自然にならないように、と気を張っていたというのに。
どれほど残酷な言葉を吐いて来るのか。心中では咄嗟に浮かんだ、由梨の名前を出すことさえ必死だった。
それを砕くように、いつもと変わらぬ淡々とした口調で、かすかな期待を残しかねない問いをプラスする彼は、いったい何を考えているのか教えて欲しくなる。
何かで胸が痞えている感覚の中、さらに反論の意欲が薄れていくだけ。決して彼には勝てないのだと…。
「…もう宜しいです、かしこまりました。
明日は専務の仰るとおり、朝一番の新幹線に乗ってそちらのマンションへ帰宅いたします。では、お休みなさいませ」
だからこそ私は残り僅かなプライドを行使し、ロボット男に悟られないよう事務的な態度で嫌味を連ね、一方的にその通話を終えてしまった。
もう掛けて来ないで欲しいと、電源ボタンへ据えたままの親指へグッと力を入れれば、静かに携帯電話は光と能力を失う。
ふぅと溜め息を吐き出せば、どうやら一連のやり取りが不審だったのだろう。
デッキで佇んでいた客らにジロジロと見られていて、何となく居心地が悪くデッキを足早に去った。
舞い戻って来た自分の席へと再び腰をおろせば、今は泣きそうになる心を奮い立たせるばかりで。視界に映る無機質な白い天井を、ただじっと仰ぎ見ていた。
そんな身を包んでいるワンピースにパンプス、さらに意見を取り入れたヘアスタイルも然り。あの嫌味な男にまつわる全てを取り払いたい気分だ。
そう小さな戯言を考えてしまえば暗に、ロボット男を心は求めていると肯定することになるではないか――
とにかくそれらを払拭したいと、忘れていた食欲を無理やり呼び起こして惰性で駅弁を頬張り終えれば、ようやく目的である名古屋到着のアナウンスが流れた。
東京とはまた違う賑いをみせる地へ降り立つとすぐさま、かつて私の居場所だった場所へと足早に向かった…。