ご主人と使用人
「あらぁ、いらっしゃい。あなたが糸緒さんね」
雲雀ヶ丘家に着くと、にこやかで可愛らしいおばあちゃんが出迎えてくれた。
エンジ色の無地の着物に、裾と肩のところにフリルがあるエプロンをしている。
「あなたのお部屋は二階なの。遠藤さん、申し訳ないけど、荷物を運んでくださる?」
遠藤さんは車から荷物を下ろして私の横に立っていた。
はい、と短く返事をしたかと思うと、執事室の方へ行ってしまった。
「では、わたくしは仕事に戻ります」
住友さんも執事室に帰ってしまった。
「私は富士スミレっていうの、よろしくね。
少し敷地内を歩きましょう。案内するわね」
「お願いします。色々と早く覚えたいんで」
この人が明様が言ってた"スミレさん"かな。
なんか話しやすそうで、上品な中にもフレンドリーな感じがあってホッとした。
みんな住友さんみたいな人だと思ってたから、それまでの緊張が少しずつなくなっていった。
私はキョロキョロしながらスミレさんについて歩いた。
前から気になっていた、庭の植え込みを動物の形に切るのは庭師のジャンの仕業だ、とスミレさんは笑った。
22歳のアメリカ人で、かなりの男前らしい。
庭師はジャンの他にあと2人いて、それぞれ手入れするところが分担されているんだとか。