ご主人と使用人


「なんだよ、はなせよ!」


またさらに顔を真っ赤にするのもお構い無しに、私は住友さんに洗面所の場所を聞いて少年の手を引っ張って行った。


洗面所もやはり豪華で、でも今はそんなことなんて気にしているわけにもいかず、

ぬるま湯で少年の傷を洗ってやった。


「いーたーいー!もっと優しくしろよ!」


「なに言ってんの。すぐに洗わないからこうなるんだよ」


少し放置された傷口の汚れは落ちにくくて綺麗にするのに苦戦したが、

水気をしっかり取って手際よくガーゼを当てて固定してやった。


「お風呂の時くらいは外してもいいけど、極力掻いたり外したりしちゃ駄目だからね。

かさぶたができるまでの代わりなんだから」


その私たちのやり取りを微笑ましそうに見ていた住友さんが、

「糸緒さん、今この場で採用を決定してもよろしいでしょうか?」


なんて言い出した。


「そちらの方は、三男の明様です。明様も、糸緒様が雲雀ヶ丘家の使用人になることを認めてくださいますか?」


「こいつ、今日面接するって言ってた人?

じゃあ、こいつ俺の世話係にしてよ」


丁寧な住友さんとは真逆に、なんだかすごく偉そうな口調だ。


まぁ、見た感じ小学生くらいだろうし、ここの主人の息子という立場なのだから仕方のないことなのかもしれないけど、

住友さんの紳士的な態度が余計に際立って、かえってこの明様は少し乱暴なように思えた。








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