チェリーが毎年クリスマスに想うこと
第5章
《 cherry books 》

店の名前には
結局、チェリーを入れた。
せっかくだから
横文字にしたいし、
ばあちゃんだって
名前入れてたかんね。
《弥生》って。

友達や、出版社の人たちまで
花を贈ってくれた。

真っ青な空に
入道雲がぷかぷか浮かんで
父ちゃんと
母ちゃんが
天国から笑いかけてくれてるような朝だった。

さぁ、一番最初の
記念すべきお客さんは
いったい誰だろう!?

木の扉を外へ開けると。

そこにいたのは・・・。

朝、デイサービスのバスに乗せ
送り出したばかりの
ばあちゃんだった。
「さくら、おめでとうねぇ~。」
「ばあちゃん!どした!勝手にでてきたん!?」
「大丈夫、ちゃんと言ってきたから。」
「?」
このばあちゃんは
いつものばあちゃんじゃない。
昔のばあちゃんだ。
ボケって治るの?
ここに来る前に
ピンクの口紅を塗ってもらったようだ。
ばあちゃんは店の中を
ぐるりと見渡し、
「いい店だ~、いい店だ~」と
何度も、何度も
繰り返し言った。

みなちゃんとかわちゃんが
二人そろって花を持ってきてくれた。
「ばあちゃん!
 homeまで送るからちょっと待ってて!」と言うと
ばあちゃんは
本を1冊選び
裏庭の
錆びたブランコで待ってると言って
店を出た。

おまわりさんの
しょうへいも
巡回しながら
ちょこっと顔を見せた。
続々と友人どもが
顔をだすので
みなちゃんが、
「さくら~、私が店番してっから
 ばあちゃん先にhomeに送ってやんな~。」
みなちゃんに甘えて
ばあちゃんを先に送ることにした。

裏庭へ回ると
ばあちゃんは
錆びたブランコで
寝ているようだった。
「ばあちゃん!帰ろうっ!」
ブランコの下に
私の大好きだった
「大きな木が欲しい」という
本が落ちていた・・・。

「やぁだ~~~っ!!ば~~ちゃ~~ん!」
「一人にしないでぇ~~っ!!」

記念すべき
《 cherry books 》の
開店日に
《弥生書店》の看板娘の一生は
幕を閉じた。

今朝、父ちゃんと、母ちゃんは
ばあちゃんを迎えに来たのか・・・・。

私は一人ぼっちになった。




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