チェリーが毎年クリスマスに想うこと
5月になり、新芽が吹き出すと
突然ばあちゃんが
「さくら~~!父ちゃんと、
母ちゃんが帰ってきた~~~!」と、
叫び、外へ飛び出していった。
その日から、ばあちゃんの徘徊が始まった。
ある時は、隣町。
またあるときは山の中で発見された。
そのうち、ばあちゃんは私のことも
ヘルパーさんと間違えるようになった。

昨年のクリスマスから
私は大殺界だ。
ヒロのことなど
すっかり忘れていたし、
正直、ヒロの事で悲しんでいる
暇はなかった。

出版社での小さな仕事は
毎月、私が食べていけるくらいはもらえた。
ばあちゃんが熟睡する夜中の2時、
私はノートパソコンを広げ
メールチェックを一通り終え、
仕事を始めるのが常だ。

[受信メール]
to cherry
----チェリー
   元気か?
   オレ、東京の本社に戻ったぞ。----
from ヒロ

驚いた、ヒロからメールが来た。
何事もなかったかのように。
私は、別に嬉しくもなく、
未練たらしい男だ。と
思った。
もしかしたら、もう
私も別れるタイミングを
見つけたかったのかもしれない。

だって、私は
物静かで本が好きな、
眼鏡をかけている男性が好きだから。
ヒロには
眼鏡が欠けていた。

ヒロからのメールは
ごみ箱に捨てた。

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