隣の秀才君
キッチンとリビングを隔てるカウンターの向こうから顔を出す父に怒られた。
渋々向かい側の席に着く私を見て速水が馬鹿にするように笑った。この野郎!てか、速水だって同じくらい大人気なかったじゃないか!
立ち込める怒りを抑えながら、私は父の持ってきたバタートーストにかぶりついた。
朝食を食べ終え、私は鞄を持って玄関に向かった。
「じゃ、行って来まーす」
「行ってらっしゃいっ!」
父の声を背に、靴を履いて家を出る。そしていつも使っている通学路を辿って行く。
ゆっくり歩いている内に、朝の澄んだ空気に高ぶった気持ちも静まっってきた。
信号を渡った後に、高校に繋がる十字路にさしかかる手前で見たことのあるような後ろ姿が…て言うか、今朝見た。
「…速水」
私よりも先に家を出たはずの速水が、何故か道のど真ん中に立っている。
つい先ほど目にしたくるくるした髪の毛。ブロンドに近い茶色い髪が風にふわふわとなびいてる。
気分は再び落ちて行くし、どうしたものかと悩んだが、動く気配がないから仕方なく私はまた足を進めた。
「ちょっと、あんた何してんの?」
「っ!!」
びくっと大袈裟に肩を揺らして、弾かれたように振り返る彼に私の方が驚いた。
私だと気づくなり、速水は直ぐに『何だ、お前か』と言いたげな顔をした。何だ、その反応。