十五の詩
風の天使
バサバサバサ
「……っ」
急な強い風が手元の楽譜を勢いよくめくり、さらって行った。窓の外へふわりふわりと落ちてゆく白い譜。
(どうしよう──)
イレーネは3階の窓からやや身を乗り出し、その行方を目で追ったが、数秒後──不思議な動きが起こった。
散らばった譜は輪を描くように穏やかな旋回を見せ、1枚、2枚、3枚と階下にいたひとりの美しい少年の指先にとらえられ、気づいた時には楽譜はすべて少年の手中に収められていた。
それがごく自然なことであるかのように。
身体の重みを感じさせない軽やかさで、トン、と地を蹴ると、少年は宙を飛んでイレーネのもとへそれを運んできた。
(飛空魔法──)
「どうぞ」
さらさらとした淡い金髪が揺れ、碧い双眸の白い花の顔が甘くほほえんだ。天使のように。
「──ありがとう」
イレーネはなかばそれに見とれ、ぼーっとしたまま礼の言葉を口にする。
少年は小さく頷いただけで、あっさり行ってしまおうとした。
「あ…」
イレーネは思わず呼び止めてしまっていた。
「私はイレーネ。イレーネ・スフィルウィング。あなたは?」
少年は振り返り、もう一度イレーネを見た。
「ユニスといいます」
「ユニス。またね」
「はい」
少年は去って行った。夢のように。
*
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