十五の詩



「──そんなに難しく考えることもないのでは」

 ユニスがぽつりと言った。レナートが何を言い出すのかとユニスを凝視する。

「好きなら話しかけてもいいのでは?先のことは誰にもわかりません。それがスフィルウィング家のご令嬢でも」

「…そっか」

 レナートが髪に手をやり、少し笑った。

「ユーニーにそう言われるとは思わなかった」

「へぇ。ユニスは好きな女でもいるのか?」

 興味を引かれたようにニコルが尋ねた。ユニスは一瞬何処を見ているのかわからないような遠い目でニコルの顔を仰ぐと、目を伏せた。

「──はい。天国に」

 先に部屋に戻ります、とユニスはソファを立った。

 サロンは静かになり、やがて「おい、ニコル」とシーゼルがニコルを小突く。

「だって、あのベビーフェイスの口からあんな言葉が出るなんて思わねえじゃねえか」

 まいったね、とニコルは頭をかいた。

 飛び級で高等科で学んでいるユニスはヴィンセント達に比べ身体つきが小さくて華奢だ。

 顔立ちも愛らしい印象があるのと普段からの優しい振る舞いも相まって、清らかな少年らしさを漂わせるユニスの口からそういう言葉が出てくるとは、誰にも予測がつかなかった。

 ヴィンセントも飲み終えた珈琲のカップを片そうと立ち上がる。ニコルの背中をポンと叩いた。

「気にする必要はないんじゃないか?ユニスが話したんだ」

「お前は聞いたことあるのか?」

「いや。初めて聞いた」

 何か先を越された気分だな、とヴィンセントは軽く肩をすくめて笑った。

 よし、俺も頑張ろう、とレナートが気合いを入れている。ヴィンセントがそれをたしなめた。

「イレーネ嬢に迷惑がかからないように、ほどほどにな」

「水を差すな!ほどほどって何だ!」

「ユニスにでも教えてもらえば?少なくともユニスはイレーネ嬢に‘またね’と言われたようだし」

「何だそれ!すっげー腹立つ!」

 喜怒哀楽が豊かなレナートにヴィンセントたちは笑った。



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