十五の詩
ふとイレーネの近くに、一匹のリスがやってきた。
可愛い。
目を細めて見ていると、リスはイレーネを見上げて話しかけてきた。
『ありがとうございます、イレーネ様』
「え…?」
イレーネは周囲をきょろきょろと見回すが、人らしい姿はない。リスに視線を戻す。
「あなたの声?」
『はい』
リスは風に溶け込んでゆくような不思議な声を響かせた。
『私はユリエ。ユニス様にお仕えしている守護精霊です。姿をとるとマスターのお身体に負担がかかるので一時だけこの者に身体を貸りております。マスターの体調が思わしくないため私が出ようかと考えておりましたら、イレーネ様がいらしてくれたので…。助かりました』
「へえ…」
イレーネは興味深そうに聞き入る。
「精霊と会話するのは初めてだ。簡単には人間の前には現れたりはしないものと思っていたけど」
『そうですね。精霊にもよりますが──人を主人に持つ精霊に関して言えば、主人に親和性のある人間の前には、姿をとる者は多いかと』
「ふうん…」
そこでイレーネは、先刻男たちが発していた言葉で引っかかっていたことをユリエに訊く。
「連中のひとりがリオピアの王子と言っていたが…?」
『──。はい。マスターのことです』
ユリエは一瞬答えを躊躇い、しかし隠し切れるものでもないと判断したのか、それを認めた。
イレーネは自分から聞いてはみたものの、俄にはそのことが信じられなかった。
ただ精霊のユリエが言うことも冗談であるとは思えず、ユニスを襲った男たちのことを思い出しながらゆっくり理解する。
「──だからあんな輩に…。あれはただのチンピラの寄せ集めではないだろう。少なくとも私を笑った男はかなり腕が立つ男のはずだ。顔に見覚えがあるから。それよりユニスが一国の王子だなんて…。一人で出歩くのは危険ではないのか?」