十五の詩



『アレクメスでは公的には身分を隠しておいでですので…。あまり厳重に警護を固めてしまうと、かえってあのような者たちの注意をひいてしまい、余計に危険なのです。関係のない民間人まで巻き込んでしまう可能性もありますから。いざとなればマスターには精霊がついております。精霊の力に頼り過ぎるのは人的ではないからとマスターは気兼ねをなさいますが、私たちはお困りであればいつでもという気持ちでおりますから』

 イレーネはユリエの言葉を聴いて不思議な気分になる。

「精霊が──それほどまでにユニスを護りたいと想っていたり信頼しているのは何故?」

 無償のそれは美しいものではあるけれど──。

 ユリエは少し考えて答えた。

『それはおそらく──マスターがそのような人であるからです』

「?」

『イレーネ様。イレーネ様がマスターを見て護ろうと思ったのは何故ですか?それもあのような危険な輩を前に。見なかったことにも出来たはずです』

「それは──」

 問われると理由はない気がした。何故だろう。

 ユニスに感謝されたかったわけではない。あの男たちにまったく動じない勇気があったわけでもない。

 ただ──そうしなければと思ったからだ。

 ユリエは答えられないイレーネを見てその気持ちを汲んだのか優しい声で言った。

『マスターもそうなのです。マスターは私たち精霊や自然界のものを理由もなく大切にしてくれます。人にそうすることと同じように。心が宿っていないものにさえ気にかけたり心にとめたりされているのを見ると──それは私たちには愛すべき方、と映ります』

「愛すべき方…」

『愛すべき方とは言ってもどのように愛しているのかは言葉では言い表せないものですが。でも私たちは私たちなりにマスターを大切にしたいのです』

 同じ世界に在りながら、時に精霊は人とは別世界のもの、相容れぬものとも言われるのはこのためか──。

 イレーネはとても清浄な空気の中にいるような気分になった。

 綺麗な空気が清みすぎて少し痛く感じる。

「精霊か…。本当に精霊は自然界に棲むものなんだね。人間とまるで感覚が違う。考え方も」

『時々マスターもそのようなことを仰います。私たちは人を悲しくさせますか?』



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