十五の詩



 ユニスはその言葉に一瞬時が止まったかのように息を詰め、やがてイレーネを見た。

 心を見透かされたかのよう。

 イレーネは「ごめんね」と小さく謝った。

「指輪からなのかユニス自身からなのか、倒れているユニスに触れた時、指輪の人のことが伝わってきた。知るつもりなかったんだけど。ユニスはその人のことが好きなんだよね。今でも」

 ユニスの顔色は変わらず「そうですか」と受け止めた。

 自身が高い感覚を持つユニスに、そういう感覚を有する人間を理解するのはそう困難なことではない。

 ただ、自分の意識のない時に個人的な記憶がそのように誰かに伝わってしまうことは、痛く感じることもある。

 でもそれはイレーネがわるいわけではない。

「ごめん。思い出させた?言わない方が良かった?」

「いえ、言ってくれた方が不安感はなくなります」

「不安はやっぱりある?」

「はい」

 空気から感情が伝わってきて痛い。イレーネはユニスの手をとった。

「こういう傷つき方は自分では防ぎようがないからどうしようもないね」

「──イレーネ?」

(何だろう?)

 繋いだ手はあたたかい。けれども──。

 ユニスは手を繋いだイレーネの心がかたく閉ざされているように感じて、イレーネを見つめた。

「──見える?」

 イレーネが問いかける。彼女の心のことだろうか?ユニスは首をふった。

「見えません」

「うん。見えないようにしてる。何もかもが伝わってしまうと痛いよね。ユニスの気持ちは私にはわかる」

「大丈夫…ですか?」

 ユニスが躊躇いがちにイレーネを窺った。イレーネの方が今にも壊れてしまいそうに見えた。

 イレーネは自分に言い聞かせるように「大丈夫」と答えた。

 ユニスの心の痛みは薄れていた。イレーネも何か自分と同じものを抱えている──。

 相手を憂う気持ちが、それを和らげていた。



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