十五の詩
「──。おい」
道を挟んだ向こう側で、ユニスとイレーネの姿を目にした男が、仲間を小突いた。先刻ユニスを襲った者のひとりである。
「イレーネ・スフィルウィングじゃねえか。何だ?あの女、リオピアの王子と出来てるのか?」
「馬連れてねえぜ」
「バカ。仕掛ける気か?さっきのイレーネの腕見たろう」
「槍も持たない女に何が出来る?王子は本調子じゃない。こっちも薬を使やあいい」
数人の男の表情に喜色が浮かび、一人がのそりと歩き出した。
「──行くぜ」
(空気が──)
不穏な空気を察知してユニスがイレーネの手を握る力を強めた。
「──ユニス?」
「先ほどの者達が」
イレーネが息をのむ。
「近いの?」
ユニスに問いかけた時だった。
わっと四方から男たちが回り込んできて、ふたりを取り囲んだ。
「よお。さっきは面白い真似をしてくれたなぁ?」
ユニスは男たちを睨んだ。その身体が光を帯びる。無尽蔵に放たれるかのような気の強さにイレーネは驚く。
先刻とはまるで違う。桁違いだ。いつのまにここまで回復したのか──。
「薬を使いましたね?」
ユニスが男たちの気を読み取りイレーネにそのことを知らせる。
ここでいう薬とは、一時的に魔力を高める薬のことだ。禁忌の薬であり、まともなルートでは手に入れることは出来ない。
「使ったらどうなんだ?」
へらっと笑って見せ、バカにするかのような仕草で首を回す。
魔導士狩りによって精製された薬──。ユニスは怒りを露わにした。
「人の殺戮によって作られる薬など薬ではない!」
ゴッと炎の円陣が顕れ、男たちの鼻先を焼いた。
「この…!!」
男たちが飛びかかろうとする。
イレーネの手をとったまま、ユニスは地を蹴り上空に飛翔した。
薬を使った男たちの数名は飛空魔法が使えるようになっているようだ。
追ってくる──!