十五の詩
ただ自分を護るかのように上空を飛行するユニスにイレーネは何も出来ない。
「──ごめん…。ユニス」
「謝らないでください」
「でも」
「あなたも私を護ってくれたでしょう。護る理由などなかったのに」
「──。身体は大丈夫?良くなったの?」
「はい。あなたの気の影響です」
「え?」
「あなたがいると魔導の力を行使しても身体に負担を感じません」
「それって──」
バシュウゥゥゥン!!
イレーネの真横を光球が掠めた。追っ手からの攻撃魔法だ。
イレーネは頭を切り替え、護るようにユニスに癒しの力を行使する。
「うわ…!?」
まばゆいばかりに、ふたりの全身が輝いた。
太陽光を裸眼で直視したかのように、男たちは目を開けていられなくなる。
ついには攻撃も、追うことすらも出来なくなった。
男たちとの距離が開いてゆく。
「──すごい…」
イレーネが自身の力に、信じられないものを見たような表情で呟く。
ユニスは笑った。
「無垢なる自然の力が勝ちましたね」
上空から地に降り、ユニスとイレーネはようやくほっとして歩き始めた。
何となく繋いだままの手が心地よい。
しばらく無言でふたりは歩いたがやがてイレーネが口を開いた。
「ふふ。自分がこんなふうに男の人と手を繋いで歩く日が来るとは思っていなかった」
「……?」
ユニスがイレーネの顔を興味深そうに見る。
イレーネの心は未だかたく閉ざされていてその心は見えなかった。だが──。
「私、男の人に対して恐怖心があるんだ」
「──」
「さっき取り囲まれた時、とても恐かった」
感情を波立たせることもなく瞳に光を映したまま微笑んでいる。
その表情のまま、白い頬を涙がぽろぽろと零れ落ちていった。
いったい過去に何があったのか──。
「──ごめん。変だ」
笑って、涙を拭った。
未だ心を閉ざしたままの人間がそのことを言葉にするのはどれだけの勇気だったろう。
ユニスは優しく包み込むように言った。
「──別に、変ではないです」
*