十五の詩
変わり芽の詩
アレクメスの上官魔導士たちの集うサンリュモンド聖堂──。
その聖堂の裏手に、フードを被った大柄な男が入ってゆく。
魔導士にそこまでの体躯を持つ者は少ない。だが広場を行き交う上官魔導士たちは、見るからに魔導士ではなさそうな不審なその男に目を止める者はいない。
何故その男が聖堂を出入りしているのか、水面下を知っているからだ。
フードの男は、前首座の任に就いていた魔導士の執務室まで来ると、ドンドンと扉を叩いた。
「開けろ」
しばらくして、ギイと扉が開いた。魔法学界の重鎮のひとりであるベルヘイム・マージュが煩そうに顔を出す。
「──お前か。相変わらず野蛮だな。もう少しましには出来んのか」
「俺の力でひしゃげる程度の魔法学界の扉なら、その腐り具合を自覚しろ」
苦虫を噛み潰した顔でベルヘイムはフードの男を執務室へ招き入れた。
「その顔、頼んだ仕事をしくじったな。とりあえず入れ」
フードの男は執務室に入るなり、ばさりとそれを脱ぎ捨てた。
ベルヘイムに差し出されるまでもなく卓上にあった酒瓶をひっ掴み、杯にも盛らずそのままぐびぐびと煽る。
レガ・ハーディス──殺しを生業とする男だ。
一気に飲み干すと、レガは執務室のソファにどかっと腰を下ろした。飲まないとやってられないという面持ちである。
「おい。あれは何だ?」
レガが訝るような問いをベルヘイムに投げた。
「何だとは?」
「ユニス・セレクヴィーネだ。あれは本当に人間か?あんなに強い薬を使っても指一本触れられもしない。桁外れだ。あれで本当に体調が悪かったのなら、あいつは化け物だ」
「薬を使ったのか。いくら使った?」
「全部だ」
「──。そうか」
ベルヘイムの内ではある程度予測の範囲内だったのかレガの前に金の入った袋を投げて寄越した。
「ご苦労だった。仕事に見合っただけの金は払う」
「おい」
苛立たしげにレガがベルヘイムに喰ってかかった。