十五の詩
先の大戦で、リオピアは周辺国に捨て石にされたという歴史がある。
現在七つの大国と数百の小国で成り立つカウフェリン・フェネスは、古来より人間と妖華と呼ばれる者との争いが絶えなかった。
妖華の発祥はよくわかってはいないが、人間の性質が悪くなるほど妖華の勢いが増しやすいと言われている。
その妖華に最も強い影響力を持っているのが魔導の力で、魔導の国リオピアは対妖華との力関係においては右に出る者がないほどの強国であった。
だがリオピアの魔導の力はその民の本質の純粋性を映す鏡でもある。
如何に強大な魔力を持とうともその内面が清らか過ぎれば、傷つきやすくも、壊れやすくもある。
先の大戦で周辺国はそれを利用したのだ。計画的な欺きは純粋な内面を壊す引き金となった。
リオピアを妖華からの盾として利用し、疲弊しているところへ総攻撃を仕掛けたのである。
リオピアの強大な魔導の力は、それくらいに周辺国にとっても脅威であったのだ。
レガの言っていることは一理あった。
ベルヘイムの言うようにユニスがユリウスを超える力を持っているのだとしたら──若い芽のうちに摘み取っておいた方がよい。
リオピアの民が──ましてその国の王子であるユニスが、周辺国に対して恨みを抱いていないとは言い切れないからである。
だが──。
「摘み取れるものなら、いくらでも摘み取る機会はあった」
ベルヘイムは窓の外を見ながら、先の大戦を思い起こしているかのように言った。
「人の力の及ばぬ次元にある物事の存在を、あの者には思い知らされることが多い。もしお前の言うようにあの者が復讐に燃える心根の者に成長していたなら、今のあの者の魔導の力もなかったであろう。あの者の魔導の力がずば抜けているのは、本質がもはや我々とは遥かにかけ離れたところにあるからだ。だからあの者は危険に晒されても、いつも何らかの力によって護られ生かされている。あの者は運命の神に愛されているとしか思えぬ」