十五の詩
レガはベルヘイムの話にわけがわからないというように首を振った。
「息の根を止める気もないんなら、あれを眠らせて連れてきてどうする気だった?薬でも精製する気だったのか?」
「実際に先の大戦の際にあの者は妖華に囚われ、メルセインの塔に幽閉されていた時期がある。その時に精製された薬が禁忌中の禁忌となっている。妖華の者でその薬を使い気がふれた者でもいるのか──実際のところはわからないが。だが対妖華となるとリオピアの魔導の血は不可欠だ。最近になってまた妖華の者が目醒め始め、増え続けていると聞く。あの者を生かすのも脅威だが、あの者がいなければさらなる脅威が世を支配するやもしれぬ」
「バカなことをしたもんだな」
「──」
「ユリウス王の首を取って喜んでみりゃ、その十数年後にはユリウスの子がユリウスを超える力を持っているとか、笑えてくるぜ。周辺国はリオピアの魔導の力と精霊とにこれから呪われるんじゃないのか?」
「お前ならどうする?」
「さてね。各国の腐った根性のお偉いさんどもの世の統治の仕方に興味を持ったことはないんでね。世の中なるようにしかならんさ。まあ、あの王子は対妖華のために薬を精製したいからと頭を下げて納得するような相手ではないことは確かだな。薬を使ったと言ったらあれは明らかに怒ってたぜ。ユリウス王の薬でもあるんなら、それを交渉条件に釣ってみるのが効果的なんじゃないか?…逆にそれがさらに逆鱗に触れることになるかもしらんが」
金の入った袋とフードを手にすると、レガはベルヘイムの執務室を出ようとする。
扉にふれたところで、振り返った。
「ああ、スフィルウィング家のご令嬢。あれも要注意だな。槍の腕だけかと思ったら、あいつもおかしな力を使いやがる。あんな白魔法見たことねえ」
「何?」
「リオピアの王子とよろしくやっているみたいだったぜ。あいつらが組むととんでもないことになるかもな」
「おい」
ベルヘイムの呼び止める声も聞かず、レガは扉の向こうに姿を消した。
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