十五の詩
ノールはすぐに位の高い人だと悟り、急いで身を低くした。
「はい。私のことです」
「楽にせよ。そう怯えずともよい」
ユリウスはノールの服の埃をはらってやり、水汲みをしていた時に作った傷に手をかざした。
すると傷はすぐに癒え、ノールはこの人は何故このようなことをしてくれるのだろうと不思議に思った。
「あなたは…?」
ノールの無垢な目にユリウスは笑った。
「この国の王の名を知っているか」
「はい。ユリウス様です」
「感心だ。幼いのに聡い」
私がユリウスだ、と言うとノールはさらに驚いた様子で瞬きをする。
「お、王様…?王様が何故?」
「わけあってお前に会いに来たのだ」
「私に?」
「こんな時間なのに、家に帰りたくないのか?」
「──」
「帰りたくないなら私の家に行くか?」
ユリウスの目は優しかった。それは自分の子を見る眼差しと同じものだった。
「私にも子がいる。お前と同じ金の髪だ。だがリオピアの民で金の髪だというだけで虐げられている。私は自分の子も、お前も、そんな理由で不幸な目に合わせたくはない」
ノールもそれは耳にしたことがあった。ユリウス王の子であるユニスは金髪であると。
けれども王子は王宮で幸せに過ごしていて、自分は決して幸せにはなれない立場の者なのだと、そう思っていた。
「ユニス様も…酷い目に?」
「お前の背負っているものとは異なるだろうが──理不尽な思いはしているだろう」
「そうですか」
「お前の家の者に話はしてある。お前を宮廷に連れて行っても構わないだろうかと」
「──。私は王様やユニス様のために何か出来ますか?」
「その言葉だけで十分だ。私について来なさい」
今まで自分はいてはならぬ者だと思ってきたノールの心に、一筋の希望が射し込んだ。
忠誠を誓うようにノールはユリウスの後について歩き始めた。