十五の詩



 そこでユリエはふっと表情を崩し、微笑んだ。

「それよりマスター?」

「はい?」

「マスターの体調がよくなられたというのは、イレーネ様の白魔法の腕だけがよかったからだと思っておられますか?」

「──どういうことですか?」

「マスターがイレーネ様に心を許しておられるということなのでは?」

「え…?」

 ユニスはそこまでは考えが及んでいなかったのか、頬を染めた。

「…違います」

「違うんですか?」

「……。わかりません」

 指輪に目を落としたまま困っている。ユリエは言葉をつづけた。

「心を許していない方からは、気の影響は受けにくいものです。元々マスターはあらゆるものから気の影響を受けやすい方ですが──ご自身を守るために心を閉ざすようになっておいででしたでしょう。でもイレーネ様がそれをいとも簡単にそれを覆してしまった──私にはそう見えるのです」

「…意味がわかりません」

 本当にわからなくなっていた。レミニアを失って傷ついている気持ちと、もう失いたくない気持ちとがまだ渦巻いているのに──。

「それでも好きになってしまうことはあるでしょう?マスターは生きているのですから」

「──」

(とめられないのか)

 歯車の狂った時計のように心臓が音を立てている。ユニスは深呼吸した。

「私はそこまで自由にしてもいいんですか?」

「マスターは気持ちの上でいろいろなことを負いすぎです。ユリウス様でもファスティーナ様をお選びになった時は、周囲から猛反対を受けたとも聞きますし。マスターがどうなさりたいかが大切なんです。大きく道から外れない限り。或いは、外れたとしても」

 ユニスの母にあたるファスティーナは歌姫だった。

 舞台で舞い、歌うことでその日の暮らしを立てていたのだ。



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