十五の詩
そのような身分の者は王家には相応しくないという反対の声もものともせず、ユリウスの気持ちを受けたファスティーナは、王妃となる。
歌姫の声は国を担う子供たちに向けられる子守唄となった。
ユニスはファスティーナの歌声が今でも胸に残っている。
「父上は、何故母上をお選びになったのかと思うことがあります」
物静かだった父と、明るく気丈な母。
ともすると、接点がなさそうな者同士なのに、ふたりでいる時はお互いに必要として選んだのだという空気があった。
ユリエは笑った。
「周囲の批判が厳しいともなれば、おふたりがお互いを支え合おうという気持ちも強まりましょう。ユリウス様は良い方をお選びになったと思います」
「良い方?」
「はい。ファスティーナ様の明るさは周囲の人間の心をも明るくしてくれたのです。あれだけ躍起になって反対していた者達が、一年後にはファスティーナ様の歌声に懐柔されてしまったのですから」
(そういえば──)
レミニアとエレシアもそうだった。
ぶっきらぼうなエレシアと穏やかで慎ましやかなレミニア。
先の妖華との大戦で、リオピア王都陥落の際にユニスが落ち延びたのがアレクメスの片田舎だったのだが、ひとりで焼け野原を歩いていたユニスに声をかけてきたのがエレシアだった。
エレシアはレミニアというシスターを連れ、ある追っ手から逃げているようだった。
状況は困難を窮めているはずなのに、エレシアとレミニアはお互いを信頼している絆で結ばれているのがユニスの幼心にも感じ取れた。
思っていることが精霊のユリエにも伝わったのか、ユリエは言った。
「先刻のマスターとイレーネ様も同じです。困難の中にあって、お互いを支えようとする気持ちが強まったのでは?」
「──」
(歴史は繰り返す)
個の感情を越えたところで繰り返される──?