触れることもできない君に、接吻を
[ ボウギャク ]
「真人、お友達が来ているわよ」

その言葉は、寝起きの俺の頭にひどく響いた。

「ほら、早く食べちゃいなさい」
「そう思うなら話しかるなよ」

俺はみそ汁を飲み干すと、鞄を肩にかけ、玄関に向かった。
靴を履こうとしゃがんだけれど、急げば急ぐほど紐が絡む。

俺は三十秒ほど靴紐と苦戦すると、ようやくドアノブに手をかけた。
ドアを開く前に、深呼吸を一つした。

きっとこのドアの向こうには、地獄が待っている。

頑張って耐えるんだ。
もう逃れられることはできないんだから。
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