触れることもできない君に、接吻を
俺は裕大の腕に怯えながら、通学路を歩いていた。
地面のコンクリートは濡れている。
昨日雨が降ったのだろうか。
そんなことを考えていると、いつのまにか通学路から外れていることに気が付いた。

「どうだ? 昨日はよく眠れたか?」
「おかげさまで」
「そうか。だけど眠そうな目をしているな。起こしてやろうか?」

ずいぶんと黙っていた裕大が、ようやく口を開いた。
回りくどい言い方はやめてくれ。
そう言おうとした瞬間、俺の腹の真ん中に裕大の手が食い込んだ。

「うっ……!」

俺って、ものすごく貧弱。
腹を襲う痛みに耐えながら、俺はそう思った。
だけど空手を習っていた奴の痛みに耐えられるはずもなく、俺はその場に崩れた。
べちゃりと音がして、ようやく俺が崩れ落ちた場所が昨日の雨のせいでぬかるんでいると知った。
制服のズボンに浸透してくる冷たい感じが、気持ち悪い。
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