触れることもできない君に、接吻を
「……何も感じないの。空腹感とか、全部。それが、怖くて……。何も覚えていることなんかなくて、いつも独りでいるみたいなの」
「大丈夫だって。ショックでちょっと体おかしくなってるだけだって。時間が経てば治るよ。それにその前に俺が記憶戻してやるし」
「そんな……わたし、もう真人くんには頼れないよ……」
「由梨はそういうこと考えすぎなんだって。俺気にしてないって言っているじゃん」

隣で由梨が幾度も涙を拭っていたが、涙が止まることはなかった。

「でも……真人くん、色々と大変でしょ?」

ようやく彼女の涙が落ち着いてきた頃、不意に彼女が呟いた。
体育座りをして顔を両足に埋めながら。

「なにが?」

俺は何のことだか分からず、間抜けな返事をした。
すると彼女は顔を起こし、こちらを寂しげな眼差しで見てきた。
< 35 / 83 >

この作品をシェア

pagetop