触れることもできない君に、接吻を

1//

「そういえば真人、前に行方不明の子のこと聞いてきたわよねぇ」

それはすぐに由梨のことだと分かった。
俺は漫画を見ながら、曖昧に返事をする。

「ああ。そうだけど、どうかした？」
「なんか殺されていたらしいわよ。怖いわねえ……」

その言葉に、思考が一旦止まってしまった。
それまで漫画のことでいっぱいだったのに、今は由梨の顔が俺の頭を支配する。

「はあ？」

俺は理解できないながらも、母さんに問う。
一体どういうことなんだ。

「母さんも今朝知ったんだけど、なんだか遺体が発見されたらしいの。世の中、本当に物騒ね」
「それ、本当に俺が探してた子？　由梨って名前の？」

俺の問いに、母さんが食器を拭きながら頷いた。

ということは、あいつは由梨じゃなかったってことか？
俺はわけが分からなくなり、頭を抱えた。
< 41 / 83 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop