触れることもできない君に、接吻を
同時に嫌な記憶が蘇ってきた。

平気で嘘をつく二人の男。
いつもと変わらぬ笑顔で、嘘を喋る二人の男のことを。

俺はそいつらと同じじゃないか。
笑いながら、嘘をついている。
自分は由梨のためだと思ってしているのだが。

「真人くん」

嘘を吐かれた人のほうが、傷付く。
それは自分も経験していて、よく分かっているはずだった。

それなのに、俺は嘘をついた。

なんて残酷な男なのだろう。
いつか由梨は事実を知ることになるだろう。
だから今言っても後で言っても変わらないというのに。

「なんだ?」

俺は名前を呼ばれ、顔を上げた。
そこには物憂げな表情をした由梨がいる。

「……本当のこと話して」

そして口重く言う。
まるでそれは俺にではなく、自分に言い聞かせるようだった。
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