触れることもできない君に、接吻を
俺はハッとして由梨の顔を見た。
悲しげな表情は変わらない。

俺はその表情を見て、痛感した。

由梨はきっと知らない。
何も、何も知らない。
だからこんなこと言うのは、俺が悲しそうな顔をしているからだ。

俺よりも由梨が辛いっていうのに、俺が支えてやんなきゃいけねえのに、何やってんだ、俺。

「……いいのか?」
「うん。覚悟はできてる」

俺が問うと、由梨はいつもの無理した笑いを浮かべる。

伝えるべきか、伝えないべきか。
そんなもの関係なく、こいつは情報を欲しがっている。

そうだ。
こいつは何も知らないんだ。
自分の情報を、何一つ知らないんだ。
そんな孤独に抱かれているよりも、どんなに辛い事実でも、自分の情報を知った方がいい。

何も知らないという孤独感なんて、俺は知らない。
俺が味わったことのないような辛さを知っているんだ。

俺は思い切り息を吸い込んだ。
そして沈黙を切り裂くかのように、息と共に言葉を吐く。

「実はお前、もう死んでるって」
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