触れることもできない君に、接吻を
自分でも驚くほどの冷静な口調だった。

だけど内心は、怖くて怖くて仕方がなかった。

――でも、俺がこんなんじゃ……由梨も、頼るに頼れねえ。

だけどその一心で、声の震えを止めた。
そしてなるべく感情を抑えて、吐き出したつもりだった。

だけどそんな努力も、あの言葉の破壊力に比べればちっぽけなものだ。

目の前に佇む由梨は、まるで抜け殻のようだった。
ぼうっと焦点の合わない目で、遠いところを見ている。
体の左右についている腕は、両方ともだらりと垂れ下っているだけ。

今その体に少しでも触れれば、壊れてしまいそうだった。
前にもそんな由梨の姿を見たことがあるけれど、それ以上に。

そんな由梨の状態は、俺に色々なことを考えさせた。


こんなになるくらいなら、言わない方がよかっただろうか。
いつか知ることになるのだから、それならば早く伝えておいた方がいい。
だからこの選択はあっていたはずだ。

だけど、だけど。


「……由梨、あのな」
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