触れることもできない君に、接吻を
由梨は次に、ぼろぼろと涙を流し始めた。
それはとどめなく、本当に「ぼろぼろ」という表現が正しいようなものだった。

俺はとにかく慰めようと、由梨の方に一歩近付いた。

「来ないで!」

そして二歩目を踏み込もうとしたのだが、由梨の声によって行為の続行はとめられた。

いきなり出た大きな声と信じがたい言葉に、俺は目を真ん丸くした。
由梨は涙を両手で掬いながら、小さく息を吸った。

「わたし、死んでるんだよ……怖いでしょ……近寄らないで。怖いくせに、無茶しないで……」

俺は否定したかった。
お前が怖い? そんなことない、と。

だけど少し図星だったのだ。

正直に言うと、怖かった。
同じ地に立っているやつが死んでいるなんて、恐ろしかった。

俺は目が据わったままの状態で、二歩目を踏み込んだ。

「わたし、死んでるの! もうやり直せないの! 全部、終わってしまったの……」

だけど由梨は涙を零しながら、必死でそう言ってきた。
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