触れることもできない君に、接吻を
その言葉に、改めて気付いた。
「死」という言葉の重みに。

「……そんなこと」

バツが悪くなって、俺は思わずうつむいた。
そのとき見えた自分の足が、がたがたと震えていた。

「ねえ、真人くん」

すると上から柔らかい言葉が降ってきた。
いつもと同じ、優しい響き。

驚いて顔をあげると、あの無理やりの笑顔の由梨がいた。
さっきとは表情も声も、別人だ。

「もう学校でしょ? 遅れちゃうよ。ほら、急いで」

まだ涙は流れていたけれど、いつもの由梨がそこにはいた。
本当は悲しくて悲しくて仕方がないのだろう。
だけどこんな笑顔を作れるなんてすごい、と俺は感じていた。

「だけど……」
「わたしのことは大丈夫だから」

俺が言葉を濁すと、またしても返ってくる。
本当は全然大丈夫じゃないのに。
そう思ったけれど、今は素直に従おうと思った。
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