触れることもできない君に、接吻を
「お前、自分が何したか分かってんのか?」

じりじりと歩み寄ってくる裕大。
体は自由に使えたのだが、俺の足は情けないことに竦んでしまい、その場に立ち往生していた。

周りの裕大の子分も、裕大の荒々しさに驚いているようだった。
俺だってこんなに怒っている裕大を見たことはない。

「い、いや……あの……」

恐怖でろれつがおかしくなっている。
俺はひたすら後ずさりをし、裕大から離れようとした。
だけどそんな努力も無駄に終わる。

「おい?」

ドスの聞いた声が、目の前に迫る。
きっと数秒後には俺の顎に裕大のパンチが決まることだろう。
そう思うと、体が震えた。

もう裕大の顔はすぐそこだ。
俺はぎゅっと目を瞑った。
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