触れることもできない君に、接吻を
そんなとき、後ろから図太い声が聞こえた。

「おい、伏見! 伏見裕大! 昼休みは補習だと言っただろうが!」

それは担任の先生のものだった。
それが分かった瞬間、俺の全身の力が抜けていくような気がした。
今までの嫌なことしか浮かばなかった頭が、真っ白になった。

目の前にあった裕大の顔が、段々と引いていくのが分かった。
ちっと舌打ちをして、子分を連れて先生の方へと歩いていく。

俺は遠ざかる裕大の姿を見ていると、安堵の溜め息が出た。
そのうえ全身の力が抜け、思わず地面に力尽きたように座り込んでしまった。

「伏見! お前は成績がやばいくせに、補習も休んで。高校に行かないつもりか?」

後ろで再び先生の声が聞こえた。
俺は心の中で先生にお礼を呟くと、足に力を込めて立ち上がり、教室に戻ろうと走り始めた。
情けないことにまだ足は震えていたが、使い物にはなった。

するといきなり、後ろの方で鈍い音が聞こえた。
その直後、嫌な予感が頭を過ぎった。

いや、だけど。
まさか、そんなことは有り得ない。

だけど、あいつなら、その可能性は……あるかもしれない。
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