触れることもできない君に、接吻を
俺は恐る恐る後ろを振り返った。
絶対に俺の考えたことが起こってませんようにと祈りながら。

「……あっ」

思わず声に出してしまった。
目に映ったこの風景は現実のものかと疑いたくなった。

倒れている先生。
周りには裕大と裕大の子分。
子分たちは何やら裕大を囃し立てている。

この一場面を見ただけで、何があったかすぐに分かる。
俺は息を呑み、ただ呆然とその光景を見ていた。

頬を押さえながら先生がよぼよぼと起き上がった。
そして何かを裕大に叫んだ。
だが、裕大は何も聞かずに腫れていない方の先生の頬を殴った。

先生がゆっくりと倒れていった。
その際に先生の目が一瞬だけ、俺と合ったような気がしてならなかった。

先生は俺の身代わりになったんだ。
俺が裕大を怒らせて、苛々した裕大は先生にあたってしまったんだ。

俺は再び、あの恐怖心に襲われた。
罪悪感が俺の中を駆け巡る。
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