触れることもできない君に、接吻を
俺は涙を拭いながら、立ち上がった。
そして全速力で教室へと走った。

その際に、また後ろの方で鈍い音が聞こえた。
目をぎゅっと瞑ると、涙が頬を伝った。


ごめん。先生。
こんな弱虫でごめん。
自分勝手でごめん。


三十メートルほど離れた場所での出来事。
俺は助けられなかった。
自分が助かることしか考えられなかった。

こんな俺でも、誰かに頼ってもらえるのだろうか。
誰一人救えないのに、信用しろなど言ってしまった。

「……由梨」

俺は立ち止まり、空を見上げた。
雲が一つもなく、青い空が限りなく続いていた。
そんな空は、俺を余計に虚しくさせた。

こんな勇気のない男に、彼女を守る資格はあるのだろうか。
守ってもいいのだろうか。
励ましてあげてもいいのだろうか。

俺は悔しくて悲しくてたまらなかった。
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