触れることもできない君に、接吻を
[ アイエツ ]
俺はとぼとぼと公園に向かっていた。

青い空が黒く霞んで見える。
商店街の賑やかさも、今ではただの雑音に過ぎない。

気分が冴えないときの世界は、何もかもが陰鬱に感じられる。

「あーあ……どうしよう」

俺は公園の階段の手前まで来ると、足を止めた。

行きたい。
行かなくちゃいけない。

そうやって自分を奮い起こさせるのだが、どうにも前向きな気持ちが出て来ない。
まあ、一時間ほど前にあんな体験をしたのだ。
これで全く気にしていないというのも、神経がどうかしている。

俺は仕方なく、石段の一段に腰をかけた。
ズボン越しに冷たさが伝わってくる。
< 72 / 83 >

この作品をシェア

pagetop