触れることもできない君に、接吻を
まあ、何年も登りつめた俺にとって、この階段は屁でもないけど。
そんなことを思っていると、すぐに頂上についた。
そこにはブランコとジャングルジムとベンチしかない、ちっぽけな公園がある。

俺はその一角で佇む女に近寄った。
女は俺の足音に気付いたのか、ゆっくりとこちらを向いた。

「ごめん。約束したのに、遅くなって」
「ううん。別にいい」

相変わらず触りたくなるような綺麗な髪をしている。
俺はそんなどうでもいいことを考えながら、自分の持っていた鞄をまさぐった。

「これやるよ」

そして女に袋に入ったパンを突きつけた。
だがそいつは首を横に振り、いいのと遠慮がちに笑った。

「別に気にしなくてもいい。どうせ給食の残りだし」

俺は傍にあったベンチに深く座り、そう言った。
だが女の態度は変わらない。

「えっとね、そういう意味じゃないの。遠慮とかじゃなくて、わたしおなかが空かないのよ。なんでか分からないけど」
「ああ、だよな。無神経でごめん」

ショックで腹も空かないんだな、と勝手に納得すると鞄にパンを詰め込んだ。
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