触れることもできない君に、接吻を

この女に会ったのは、昨日のことだ。
名前を尋ねても分からない。何を訊いても、覚えていないと答える。
困った俺は、明日も来ると約束をした。
お前が誰なのか、調べてやるからという言葉を残して。

「違うの」

俺を咎めるかのような暗い声で、女は静かに呟いた。
何のことか分からないので問おうとしたが、そんな俺の疑問を制するように女がまた言う。

「喉も渇かないの。お腹も空かないし、眠たくもならない」
「お前、感覚イカれてんのか？」

思わず漏らしてしまった言葉に、女が頬を膨らませた。

「あっ、ごめん、ごめん。冗談だって」

俺は軽く笑い飛ばすと、鞄から今度はファイルを取り出した。
そのファイルには、何日か前の新聞の切り抜きが挟まっている。