美しいあの人
祐治があたしの書いた雑文を意気揚々と出版社に送りつけてから二週間ほど経っても、
松井さんが店にあたしを訪れることはなかった。
電話もないしメールもこないし、せんばづるでも会わなかったから、
あたしはすっかり安心していた。
きっともう松井さんは祐治の書いたものに興味はないのだろうと思い込んでいた。
もしくは、これまで病的にひとつの文章だけを送り続けていた祐治が、
急に一応文章になっているものを送って来たからつまらないと思ったのだろうと考えた。
忙しいからそれどころではないのだろうと、気にしなかった。
それよりもあたしは祐治の機嫌を取ることに必死だった。
なにせ祐治は分かりやすかった。
あたしの調子があまり乗らずに、たいした分量を書けないで帰った日は、
起きてみると祐治の機嫌があからさまに良くなかった。
反対に、あたしがたくさん文章を書いてそれを祐治のパソコンにコピーしておいた時は、
とても機嫌が良く、あたしのこともたくさん構ってくれた。
もしかしたらあたしが書いているのに気がついているのでは? と思ったことすらある。
ところが祐治はそれを自分が書いているのだとすっかり信じ込んでいるようで、
機嫌の悪い日は、美しい眉を寄せて
「ごめんねエリ、今日はなんだかうまく書けないんです。なのでそっとしておいてもらえますか」
などと言うのだった。
そんな姿を見ていたら、あたしはなんだか申し訳ないような気持ちにすらなってしまって、
ああ今日は頑張って少しでも多く書けるようにしておこうと、
必死にマンガ喫茶でキーボードを叩き続けた。
松井さんが店にあたしを訪れることはなかった。
電話もないしメールもこないし、せんばづるでも会わなかったから、
あたしはすっかり安心していた。
きっともう松井さんは祐治の書いたものに興味はないのだろうと思い込んでいた。
もしくは、これまで病的にひとつの文章だけを送り続けていた祐治が、
急に一応文章になっているものを送って来たからつまらないと思ったのだろうと考えた。
忙しいからそれどころではないのだろうと、気にしなかった。
それよりもあたしは祐治の機嫌を取ることに必死だった。
なにせ祐治は分かりやすかった。
あたしの調子があまり乗らずに、たいした分量を書けないで帰った日は、
起きてみると祐治の機嫌があからさまに良くなかった。
反対に、あたしがたくさん文章を書いてそれを祐治のパソコンにコピーしておいた時は、
とても機嫌が良く、あたしのこともたくさん構ってくれた。
もしかしたらあたしが書いているのに気がついているのでは? と思ったことすらある。
ところが祐治はそれを自分が書いているのだとすっかり信じ込んでいるようで、
機嫌の悪い日は、美しい眉を寄せて
「ごめんねエリ、今日はなんだかうまく書けないんです。なのでそっとしておいてもらえますか」
などと言うのだった。
そんな姿を見ていたら、あたしはなんだか申し訳ないような気持ちにすらなってしまって、
ああ今日は頑張って少しでも多く書けるようにしておこうと、
必死にマンガ喫茶でキーボードを叩き続けた。